那珂組コラム

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今月の法話 令和7年12月[真教寺(月隈) 月江教昭]NEW!

「わがはからいにあらず」~緩和ケア・疾病の軌跡~

此の度は「疾病の軌跡」についてお話ししたいと思います。

「皆さん、どんな最期を迎えたいですか?」と尋ねると、多くの方が「ピンピンコロリが理想です」とおっしゃいます。元気に過ごし、誰の手も借りず、苦しまずにスッと逝けたら一番だ、と。これは自然な願いでしょう。

 

【図1:疾病の軌跡】

(下記より改変引用)
Lynn J,Adamson DM:Living well at end of life:adapting health care to serious chronic illness in old age.Arlington Rand Health, WHITE PAPER,p8,2003.

 

しかし、図1に示される疾病の軌跡の中で、最も“究極のピンピンコロリ”に近いのは、実は④の突然死・予期せぬ原因のパターンなんです。自死、事故、事件、あるいは心筋梗塞・大動脈解離・脳出血などの急死がここに入ります。確かに苦しむ時間は短いかもしれませんが、実際には非常に強い身体的苦痛が伴うことが多いですし、何より残された家族は全く心の準備がないまま深い悲嘆に突き落とされ、図2の非回復(不安、抑うつ、適応障害など)・増悪(複雑性悲嘆、大うつ病)のパターンへと進んでしまうことも珍しくありません。

 

【図2:心理的トラウマ(衝撃)後の心理的健康度の推移】

(下記より改変引用)
Andrykowski MA et al : Psychoological health in cancer survivors. Semin Oncol Nurs 24 : 193-201. 2008

 

では、医学的に最も苦痛が少ないのはどのパターンかといえば、図1の③:フレイル(虚弱)の経過だと言われます。最晩年は「ネンネンコロリ」とも呼ばれ、ゆっくりと意識が薄れていくため、本人の苦痛は少ない。ただし長期の介護が必要になります。しかし、その時間のおかげで、家族は心の受け入れ準備が進み、いわゆる「受容」が成立しやすいのです。

図1の②:臓器不全の方は、急変しては回復し、また急変して…という経過を段階的に繰り返します(再燃と寛解)。そのため、本人も家族も「またか」「今回はどうだろう」と経験を積み重ね、最期にはある程度の諦めや納得が生まれることが多いようです。

そして、日本の死因第1位であるがんは、図1の①にあたります。予後1〜2か月ぐらい前までは、健康時とそう変わりなく過ごせることもありますが、その時期を境に急速に状態が落ちていきます。歩けなくなり、立てなくなり、食事が取れなくなり…坂道を転がり落ちるように変化が進みます。頭では理解していても、心がついていかないことも多いのです。しかし、予後が週単位になると傾眠(刺激で覚醒するが、刺激がなければ寝てしまう)、日単位になると昏睡(刺激に反応しない)となり、意識は静かに遠のいていくので、苦痛は少なく、「ネンネンコロリ」に近い最期になります。ある意味で、がんの最期はピンピンコロリとネンネンコロリの良いところが重なった形とも言われます。

ただし、私たちは自分の死に方を選べません。フレイルで穏やかに、と思っていても、ある日突然、④の突然死で亡くなることもあります。元気だった人が、病院でがんを告げられ、数か月で亡くなることもあります。

どのように死ぬかは「縁」によるものです。言い換えれば、仏さまのはからいの中で、私たちの最期は定まっていくのです。

どんなに辛い別れであっても、そこには何かの意味があるのでしょう。その意味を受け取ることができた人は、図2の「成長のパターン」へと進むことがあります。

 

「わがはからいにあらず」

思い通りに生きられず、思い通りに死にもできない私たち。生と死の意味をどう受け止めればよいのか。それを知る道は、仏さまの言葉に耳を傾けることなのだと思います。

 

那珂川病院 緩和ケア内科 部長(常勤) / 二日市那珂川病院 緩和ケア内科(非常勤) 医師

真教寺(月隈) 住職 月江 教昭