那珂組コラム

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今月の法話 令和3年8月[法善寺 楠 壽彦]

今年も昼は境内から蝉の声、夜には田んぼから蛙の声が聞こえる暑い盛りの季節がやってまいりました。

私ごとですが、今年の5月で住職として法善寺を御預かりさせていただく運びとなりました。

僧籍(お坊さんの免許)をいただいて5年が経ちますが、お盆の季節が近づくと前職のことを思い出します。

前職は某ディスカウントストアの青果部門のバイヤーでした。

お盆になると店の売場には色とりどりの生花が並び、旬の果物が綺麗に陳列されています。勤めていた会社は24時間営業のお店でしたので朝早くからお客様が来店されます。

ある年の8月12日、お盆入り前日の朝6時前にいつも買い物されるおばあちゃんが来店されました。

「おはようございます。」と声を掛けると「おはよう、ご苦労様。」と挨拶を交わし、「今日もバナナとトマトでいいですか?」といつも買っていかれる物を尋ねました。

「今日はね・・・」といつもと違うので不思議に思っていると、「青バナナあるかしら?」と尋ねられました。

※【青バナナはお盆の時期に出回り、黄色くならず普通には食べれませんが、飾用の供物として販売されています。】

「すみません・・・あと2時間後には市場から届きます。」と答えると少し残念そうな顔をされました。

私は心苦しくなって続けて謝ろうと思い話しかけようとすると、おばあちゃんの方から「今年はおじいさんの初盆だから探してるけど何処にもないの。ここなら毎年売ってるの見てるから・・・。」と仰り、大切な方を亡くされてから初めてのお盆を迎えられる事を知りました。

私が「そうでしたか・・・でも今日は大きな一房売りのバナナが特別にあるからいかがですか?」と尋ねると、おばあちゃんは少し悩まれていました。

続けて私が「青バナナは普通に食べれないけど、このバナナだったらお供えした後にみんなで食べれますよ。集まったみんなが美味しいって食べると、仏さまもおじいちゃんも美味しいって、笑ってありがとうと言ってくれますよ。」と話すと

「そうね、そうよね!ありがとう、ありがとうございます。」と晴れやかな顔で笑って私に向かって合掌されました。

この時のおばあちゃんの「ありがとう」の一言で私は嬉しく、ホッとしたのと同時に、相手を思う気持ちと「ありがとう」の大事さを感じました。

ご門主のお示しくださった “私たちのちかい” の1番目に

「自分の殻に閉じこもることなく穏やかな顔と優しい言葉を大切にします 微笑み語りかける仏さまのように」とあります。

仏さまの【縁起】の教えは、この身に起こるすべては様々なつながりの中にあることを説かれています。

仏さまの教えを通し、おばあちゃんとの会話の中に《わたし》という存在は人を支えているのと同時に、多くの人に支えられている事、たくさんのご縁の中に寄り添う心と感謝を伝える大切さをこの身に知らされた事でありました。

普段の何気ない会話に「寄り添う心」と「ありがとう」の仏縁に遇わせていただいた数年前のお盆でありました。